目次
- はじめに
- 運行管理業務とはなにか
- 運行管理者の役割と重要性
- 運行管理業務の対象となる企業
- 運行管理業務の具体的な内容
- 運転者の管理
- 車両の管理
- 運行の管理
- 緊急時対応と事故防止
- 法令遵守と記録管理
- 運行管理業務の社会的価値
- まとめ
1. はじめに
今回のコラムで取り上げるのは「運行管理業務」です。一般企業における運行管理業務と聞くと、運送会社をイメージする方も多いかもしれません。しかし、実は自社で車両を保有し、利用者の送迎や通院・参列支援などで日常的に車両を使用する介護施設・病院・式場においても、この運行管理業務は非常に重要な役割を担っています。
このコラムでは、病院・福祉・観光送迎等における運行管理業務とは具体的にどのような仕事なのか、その重要性から具体的な業務内容、社会的価値まで、多角的に解説していきます。
2. そもそも運行管理業務とは何か?
2.1. 運行管理者の役割と重要性
運行管理業務の中心となるのが、運行管理者です。運行管理者は、安全かつ円滑な車両の運行を確保するための責任者であり、道路運送法や貨物自動車運送事業法といった関連法令に基づき、特定の事業所ごとに配置が義務付けられています。
その主な役割は、以下の3点に集約されます。
- 運行の安全確保: 交通事故の防止、過労運転の防止、車両の適切な点検整備などを通じて、人命と運行の安全を守ります。
- 法令遵守: 道路交通法、労働基準法、環境関連法規など、多岐にわたる法令を遵守し、企業の社会的責任を果たします。
- 効率的な運行計画: 依頼主のニーズに応えつつ、燃料費の削減、車両の稼働率向上など、経済的な効率性を追求します。
以上のように運行管理業務は、単に車両を動かすことだけではありません。会社の信用、ひいては企業の存続にも関わる重要な業務であり、その責任は非常に重いと言えるのです。
2.2. 運行管理業務の対象となる企業
運行管理業務が必要となるのは、トラックやバスを主軸とする運送会社だけではありません。自社で営業車両、シャトルバスなどを保有し、事業活動の中で継続的に車両を使用する以下のような一般企業も、運行管理業務の対象となります。
- 病院・介護事業: 顧客送迎、営業車両の運行など
- 冠婚葬祭業:参列者送迎、車両管理、運行など
- 観光送迎:観光客送迎、車両管理、運行など
これらの一般企業においては、ドライバーは必ずしも「運転を生業とするプロ」ではない場合もあります。そのため、より一層、運行管理者の安全意識の啓発や教育指導が重要になります。
3. 運行管理業務の具体的な内容
運行管理業務は多岐にわたりますが、大きく分けて「運転者の管理」「車両の管理」「運行の管理」「緊急時対応と事故防止」「法令遵守と記録管理」の5つの柱があります。
3.1. 運転者の管理
安全な運行を実現するために、運転者の健康状態や運転技能、労働時間などを適切に管理します。
- 乗務割の作成・管理: ドライバーの勤務時間、休憩時間、休日などを考慮し、無理のない乗務割を作成します。過労運転防止のための重要な業務です。
- 点呼の実施: 出車時と帰車時にドライバーと対面し、健康状態(酒気帯びの有無、体調不良など)、免許証の確認、車両の日常点検状況、指示事項の伝達などを行います。異常があれば乗務の中止を指示するなど、最終的な安全確認の場となります。
- 指導・監督: 安全運転意識、交通法規の遵守などについて、定期的な研修や個別指導を行います。事故やヒヤリハットの発生時には、原因究明と再発防止策の指導も行います。
- 健康状態の把握: 定期健康診断の受診状況の確認などの健康状態の把握と適切な対応を促します。
3.2. 車両の管理
車両が常に安全な状態で運行できるよう、点検整備状況を管理します。
- 日常点検の実施指導・確認: ドライバーが日常的に行うべき点検(タイヤ、ライトなど)の実施を指導し、その結果を確認します。
- 定期点検・整備の計画と管理: 車両の定期点検(車検、法定点検など)のスケジュールを管理し、適切な時期に実施されるよう手配します。
- 事故車両の対応: 事故が発生した場合は、速やかに事故現場へ急行し、状況確認、警察や保険会社との連携、代車の手配などを行います。
3.3. 運行の管理
効率的かつ安全な運行計画を策定し、その進捗を管理します。
- 運行計画の策定:利用者の体調や目的地を考慮した 最適なルートやスケジュールを立案します。
- 運行状況の把握: GPSやデジタルタコグラフ(デジタコ)などを活用し、リアルタイムで車両の運行状況を把握します。遅延やトラブルが発生した場合は、迅速に対応します。
- 配車業務: 車両の空き状況、ドライバーの勤務状況などを総合的に判断し、効率的な配車を行います。
3.4. 緊急時対応と事故防止
万が一の事態に備え、迅速かつ適切な対応ができるよう体制を整えます。
- 事故・故障発生時の対応: 事故や故障が発生した際には、現場への指示、警察・消防・病院への連絡、関係者への報告、代車・救援の手配など、一連の緊急対応を指揮します。
- 災害時対応: 地震、台風などの自然災害発生時における運行の中止・再開判断、避難経路の確保、情報収集などを行います。
- ヒヤリハット報告の収集と分析: 事故には至らなかったものの、危険を感じた事象(ヒヤリハット)を収集し、その原因を分析して再発防止策を講じます。
3.5. 法令遵守と記録管理
道路運送法をはじめとする関連法令を遵守し、必要な記録を適切に管理します。
- 各種法令の遵守: 道路運送法、貨物自動車運送事業法、労働基準法、環境関連法規など、運行に関わる多岐にわたる法令を遵守します。
- 運行記録の管理: 運転日報、点呼記録、車両整備記録、事故記録、など、法律で定められた各種記録を正確に作成し、保管します。
4. 運行管理業務の社会的価値
運行管理業務は、単なる企業内管理に留まらず、私たちの社会全体にとって不可欠な極めて高い社会的価値を持っています。
生活インフラの維持: 介護事業や病院等の送迎では事業所だけでは手が回らず十分なサービスを提供することができないことがあります。こういったサービスを運行管理業者が肩代わりすることで要介護者、患者は必要なサービスを受けることができます。
社会全体の安全確保: 運行管理者の最も重要な使命は、交通事故の防止です。適切な管理と指導を通じて事故を未然に防ぎ、ドライバー自身の命だけでなく、道路を利用する全ての人々の安全を守り、社会全体の安全安心に大きく貢献しています。
5. まとめ
病院・福祉・観光送迎等における運行管理業務は、単に車両を動かすだけでなく、人命の安全を守り、企業の信頼を築き、持続的な事業活動を支える非常に重要な役割を担っています。このように運送事業者だけでなく、自社で車両を保有する多くの企業にとって、運行管理は事業運営の根幹をなすと言っても過言ではありません。
責任の重い仕事ではありますが、その分、社会貢献性も高く、日々変化する状況に対応しながら問題解決を図ることで、自身の成長を実感できるやりがいのある仕事です。交通の重要性が高まる現代において、運行管理の専門知識とスキルを持つ人材は、ますますその価値を高めていくことでしょう。
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