社用車や営業車を含む事業用自動車の安全な運行には、「運行前点検」の実施が不可欠です。これは単なる任意のチェックではなく、法令で義務付けられた点検業務であり、違反があれば企業や管理者が処罰の対象になる可能性があります。
運行前点検とは?
運行前点検とは、運転者の健康状態および車両の安全状態を確認することを目的とした、業務開始前に行う安全確認作業です。これは安全運転管理者が担うべき重要な業務のひとつであり、以下の2つの視点から実施されます。
- 運転者の状態確認
- 車両の安全点検
1. 運転者の確認項目(健康チェック)
運行前には、運転者が安全に運転できる状態かどうかを確認する必要があります。確認項目には以下の内容が含まれます。
- 疲労や睡眠不足の有無
- 体調不良(腹痛、頭痛など)
- 飲酒やアルコールの摂取有無
- 薬の服用状況(運転に影響を及ぼすもの)
- 顔色や声の調子などの外見的変化
持病を持つ運転者への追加確認項目(例)
病気 | 主な症状例 |
---|---|
高血圧 | めまい、頭痛、動悸 |
心疾患 | 息切れ、胸痛、脈の乱れ |
糖尿病 | 倦怠感、口渇、頻尿、めまい |
2. 車両の点検項目
車両に対する点検は以下の2つに大別されます。
■ 日常点検(毎日、運行前に実施)
以下の項目を目視や簡単な操作で点検します。
- ブレーキ:踏みしろ・効き具合・液量
- タイヤ:空気圧・摩耗・亀裂
- バッテリー:液量
- エンジン関係:冷却水・オイル量・ベルトの張り
- 灯火類:ヘッドライト・方向指示器の点灯確認
- ワイパー・ウォッシャー:拭き取りの状態、液量
- エアタンク:凝水の有無(エアブレーキ車両)
■ 定期点検(3ヶ月ごと)
自社での実施または整備業者への依頼が可能です。点検項目の例:
- かじ取り装置(ステアリング)
- 制動装置(ブレーキ)
- ホイールやナットの緩み
- サスペンション
- 点火プラグ等の電気装置
- 排気状態や加速の具合
法令に基づく義務と罰則
運行前点検は、道路運送車両法および道路交通法施行規則に基づいて義務付けられており、安全運転管理者の責任に含まれます。
義務違反に対する罰則
- 管理者の選任義務違反 → 公安委員会による解任命令
- 点検義務の怠慢 → 最大30万円以下の罰金
- アルコールチェック未実施による飲酒運転 → 管理者も含めて法的責任
法改正に関する対応ポイント(白ナンバー事業用車の注意点)
2021年の重大事故を受け、道路交通法施行規則が段階的に改正されました。以下はその概要です。
主な改正内容
改正日 | 内容 |
---|---|
令和4年4月 | 酒気帯びの目視確認義務化(運転前後) |
令和4年10月 | アルコール検知器の使用義務化 |
令和5年12月 | 国家公安委員会が定める基準機器の使用義務化 |
対象となる事業所
以下の両方に該当する場合、改正の対象となります。
- 白ナンバーの車両を業務に使用
- 安全運転管理者の選任義務がある(以下いずれか)
└ 乗車定員11人以上の車両:1台以上保有
└ その他車両:5台以上保有
必要な事前準備(法改正対応)
- 安全運転管理者の選任
- アルコールチェック記録の保存(1年間)
- 国家公安委員会が定めるアルコール検知器の準備
記録には以下の項目を含める必要があります:
- 確認者の氏名
- 運転者名
- 車両の識別情報(登録番号など)
- 確認日時
- 確認手段(対面/リモート)
- 酒気帯びの有無
- 指示事項や特記事項
車検・法定点検の忘れ防止も重要
- 車検(通常:初回3年、以降2年ごと)
- 法定点検(最短3ヶ月~1年ごと)
法定点検未実施は、道路運送車両法第110条違反により30万円以下の罰金が科される可能性があります。点検スケジュール管理を徹底し、ステッカーや一覧表などで可視化しておくことが有効です。
業務負担軽減のための外部委託という選択肢
自社で運行管理を行うには、ドライバーの健康管理、点検業務、記録の保存、機器の保守など多岐にわたる対応が求められます。人的リソースに不安がある企業は、車両運行管理の専門業者に委託することで負担を軽減できます。
まとめ
運行前点検は、車両と運転者の両面から安全を確保するために不可欠な業務です。近年の法改正により、対象範囲は「白ナンバー」の車両にも広がっており、アルコールチェックや健康状態の確認義務が企業に求められています。
法令順守・安全管理体制の構築は、企業の社会的責任を果たす上でも重要です。点検記録やチェック体制の整備に加え、必要に応じて業務の外部委託も検討しましょう。
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